2007年09月09日

No.445 潤いのない競馬

 本日、日曜日。
 しかしそんなことに一切関係なく仕事で出勤。
 何も考えてはいけない。
 朝の電車にいつもの学生が乗ってこないのはなぜなのか? とかそんなことは考えてはいけないのだ。

 会社到着。
 いつも通り仕事が始まる。

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 午後3時、休憩時間。
 いつも通り休憩室でテレビを点けると、今日は競馬の日であった。
 娯楽のない仕事仕事の生活に疲れた会社員たちは、少ない刺激を求め、おもむろに言った。

「このレース、賭けようゼ……」

 仮に馬券があたったとして、そのお金を使う暇があるのか? などと考えてはいけない。
 とにかくわれわれは、代わり映えのしない勤務生活に、馬券を楽しむという一滴の刺激が欲しかったのだ。
 しかし私を除き、競馬の知識があるものは皆無。
 自然、私にどの馬が良いのかと皆が意見を求める。

「こういうのは自分の好きな番号とか、名前とかインスピレーションでいいんじゃないですか? 変に情報を得るよりそのほうが楽しいですよ」

 そんなん考えて説明するの、面倒くさいし――という一言は飲み込んだ。
 そこで部長が断言した。

「ディープインパクトでいいじゃないか!」

「もう引退しましたからっ!!」(全員即答で総ツッコミ)

「むぅ……」

 ビール腹を タプン と揺らしてうな垂れる部長。
 ドドリアの異名をとる部長は爆砕した。

 本日のメインレースは2つ。
 関東では京成杯オータムハンデという1600mのマイル戦。グレードはG3。
 関西ではセントウルステークスという1200m電撃のスプリント戦。グレードはG2。
 どちらも短距離戦。
 最近の短距離戦は荒れる傾向にあるから、大穴狙いもいいんじゃないでしょうか、と注釈をつけておく。
 皆はその言葉に頷きながら、私のパソコンの馬柱に皆が目をやる。
 そう、馬券を購入するには、私のPCで買うしかないからだ。
 そもそもこれを部長に見られている時点で落ち着かないんですけどね、はい。

「ディープインパクトがいないのなら、ワシはこのメイショウトッパーという馬にしよう!」

 部長が言った。

「名将、というのがいかにも強そうで良いじゃないか! それからこっちのレース(京成杯)はグレイトジャーニーという馬だ。グレイトってのが気に入った!」

 部長、産まれて初めての馬券を(名義は私とは言え)購入。

「払い戻しは自分の口座に振り込まれるんで、高額になった場合はちょっと待ってくださいね」

「うむ」

 単勝に1000円ずつかけたので、2000円受け取る私。

「じゃあ俺はこのストーミーカフェってので」
「私はショウナンパントルっていう、1頭だけ女の子の馬で」
「僕は5月生まれだから、マイネルシーガルとマリンフェスタって馬で」
「面白そうな名前あった。俺はこのオレハマッテルゼって馬で行こう」
「アイルラヴァゲインってのがよさそうだ」

 皆、思い思いの馬を指名し、私にお金を渡していく。
 あっという間に一瞬だけ小金持ちになる私。
 なんだかノミ屋行為を行っているみたいで居心地が悪い……。
 つかこれ犯罪になるの? ちょっと首を傾げる私。
 代わりに馬券を購入しているだけだからいいんだよね?

「おい、ピンクボンバーはどうすんだ?」

 未だにピンクボンバー呼ばわりに内心傷付きつつも、自分の分を購入する。

「おい、その馬連とか馬単とか3連単ってのはなんだ?」

「買い方が色々あるんですよ。1着2着を当てたり、1着から3着までを的中させる馬券とか、馬券には色々あるんです。もちろん的中率が低くなるから倍率も上がります」

「ややこしいやないか。1着あてるだけでええやんけ」

「そ、そうですね……」

 予想で飯食ってる人たちが聞いたら泣きそうなセリフである。
 とにかく私は自分の分を購入し、レースが始まるのを皆で待つ。

「おい、大坪さんとかいうやつ、キンシャサのなんとかいうのをやたら押しとるぞ。そんなええ馬なんか?」

「まぁ、1番人気ですしね」

「ほんじゃそれにも1000円かけとくわ」

「はぁ……」

「このオッサンはアグネスラズベリとかいう美味そうな名前を推しとるわ。おい、これも買うとこ」

「は、はぁ……」

 テレビの解説者の言葉にどんどん惑わされ、買い目を増やす初心者たち。
 採算取れるつもりなんだろうか?
 そもそもこれで当たらなかったらどうなるんだ?
 この休憩時間に競馬に参加したもの、私を含め計12名。
 全ハズレってことはないと思うんだけど……。
 ずっしりと重くなった私の財布が、別の重みで潰れそうだ。
 なんつーか、胃の辺りがキュンキュンする変なプレッシャーに押される私であった。

 そしてレースは始まった。
 まずは京成杯オータムハンデ(G3)から。

 ニコニコ動画は ココ
 YouTubeは ココ です。
 ニコニコ動画の画質のほうが綺麗なんで、IDある方はこちらでどうぞ。

 結果は1着、キングストレイル。2着はカンファーベスト。3着はマイネルシーガルであった。
 沈黙する休憩室12名。

「……おい、誰かこのキングなんとかっていうの、買ったか?」

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 シーン。
 ちなみに私が買ったのはカンファーベストから流した馬連、3000円分。
 2年前、同じ中山競馬場が舞台のセントライト記念を勝った馬、キングストレイルを覚えていた私は、きっちりと500円分購入していた。

 ……が、この沈黙する場で...

「俺、あたりました」

 なんて誰が言えるというのか!?
 そんなこと言ってみろ。殺されるじゃないか。
 私は喜びたいのを必死に堪えて沈黙を守った。
 ちなみに17.9倍なので、6000円くらいプラスになったことになる。

 全員重い空気で押し黙る中、もうひとつのメインレースであるセントウルステークスがスタートした。

 ニコニコ動画は ココ
 YouTubeは……探したけどありませんでした。

 結果、1着は人気薄のサンアディユ。2着カノヤザクラ、3着はキンシャサノキセキであった。

 ・
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 ・

「おい、誰かこのサンなんたら、買ったか?」

 ……全員首を横に振る。
 重苦しい雰囲気が一層険しくなる。

「やっぱギャンブルはあかんな。さぁみんな、まじめに働くとしよか」

 部長が会社人間らしいセリフと共に皆に解散を促す。
 私は押し黙ったままデスクに戻った。

 言えない、絶対に言えない……。
 アイビスサマーダッシュを重馬場とはいえ制したサンアディユが、こんな低評価なのは買い目だな、などと思いキンシャサノキセキとワイドで500円購入していたことなんか、絶対に言えない!!

 ――しかし目は笑っていた。

「ん?」

 目ざとく気づいた後輩が私のモニターを覗き見る。
 視線に気づき、素早くウインドウを隠そうとしたのだが、時すでに遅し。

「あー、先輩、当ててるやんっ!!」

 後輩絶叫。
 私も叫んでこの場から逃走したい!!

「なにぃ……」

 しかし、ドドリア部長ご起立。見上げればすぐ横に。
 そのビール腹とは裏腹に、機敏な動きで私をその腹で圧迫してきた。
 逃げられない、逃げられないッ!!

「なんで言わんかったんや……?」

 部長、目がマジ。つか、全員こっちに大注目。

「あの雰囲気で言えるわけないじゃないですかッ!!」

「そやのぅ、そやのぅ。会社に余計なプログラム入ったノートPC持ってきてそのお陰でひとりだけ銭稼いだて、言えるわけないわなぁ……」

 ものすごい棘のあるお言葉である。

「今日の夕飯、久々に弁当買うことにしよ。祝儀でその弁当、奢ってくれや」

 もはや脅迫に近い。
 しかし私は頷き、こういうしかなかった。

「あぁ、そのくらいならいいですよ……」

「そのくらい?」

 しかし言い方が悪かった……。

「そのくらいてお前、どんだけ大金せしめたんじゃああああっっ!!」

 京成杯が500円×17.9倍−掛け金3000円=5950円
 セントウルSが500円×40.1倍−掛け金3000円=17050円

「まぁ20000円くらいですかね……」

 頭の中でざっと計算し、恐る恐る告げる私。

「そんだけあったら12人分くらい、軽いわな」

 強制ですか……。
 私はうな垂れつつ、そうですね、としか言うしかなかったのである。
 全員で700円くらいするお弁当を注文。
 しかも競馬に参加しなかった他の人も注文し、20人前以上注文したのであっという間に諭吉くんがパタパタと羽ばたいていき、儲け分なくなってしまったのであった……。

 しかも買いだしに行く羽目に、というかパシらされるし。
 メインレース2つ見事に的中させて儲けなしでこの仕打ちって、どういうことやねん!!

「ありがとうございましたー」

 弁当屋の可愛いバイトの子の笑顔だけが救いであった……。

posted by BlueTasu at 00:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 競馬 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
僕も去年から友人に誘われて競馬を始めた身ですが、予想してレース中のドキドキ感とかマジで最高ですよね!
でも、きついことに5人とかでWINSにいったりして一人勝ちすると結局当たり金おごりでプラス要素はないんですよね〜(泣
ただそれでもレース前のドキドキ感とか当たったときの興奮はたまりません!!
だから当たったときにblueTasuさんが冷静でいられたのはある意味すごいなって印象だったし、何より話がリアルでちょっとありがちぽさが面白いです、はい

ちなみに僕らはみんなしょんぼりしながら帰りました(落
であまたお邪魔しまぁ〜す。
Posted by ハボリム先生 at 2007年09月10日 16:57
京成杯は買わなかったんですが、セントウルはキンシャサから馬連で行ってしまいました…
サンアディユもカノヤザクラも買っていたのに( ̄~ ̄;)
今秋も買い方下手で勝ち損ねそうです;;
Posted by まなぶ at 2007年09月11日 04:47
 ども、コメントありがとうございますですよ。

>ハボリム先生
 先生、競馬を始められましたか。
 予想する時間、そしてレースを待つまでの緊張感と高揚感、そして結果で一喜一憂。楽しいですよね〜。
 へぼな私は大抵の場合、一喜一憂ではなく一憂一憂なんですが……。
 今回は特殊でしたね。
 当たったときは冷静でいられたというより、むしろどうしよう、この場をどう取り繕おうと頭の中が大混乱で必死でしたよ。
 結局バレましたが……。
 他の誰かが当たっていたら「あ、俺も当たった」って感じでいけたんですが、さすがに私だけ的中と言うのは後味が悪いのです……。
 なぜこういうときだけビギナーズラックが総スカンを食うのかねぇ……。

>まなぶさん
 セントウルはサンアディユの勝ちっぷりが凄かったですね。
 ダービーのウオッカ同様、ハマっちゃったという気もしますが、本番の人気はいかほどとなりますか?
 サンアディユは重賞馬なのに11番人気はありえない、と思い完全に狙い目でした。
 それをなぜ言い出せなかったのか、そこらへんが私のある種の勝負弱さとも言えますかね……。

 でもカノヤザクラは私的に意外でしたよ。
 カノヤザクラを買えた理由ってなんですかね?
 ぜひ聞きたいところです。

Posted by BlueTasu at 2007年09月11日 05:33
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