2007年02月24日

No.315 ほろ苦きピザの思い出

 本日は仕事が休み。
 だからといって一日中家の中でごろん、としているわけにもいかず、休みの日には掃除、洗濯という、普段任せっきりの家事仕事が役割分担上あったりする。
 でも貴重な休日を潰すのはイヤなので、とにかくてきぱきと仕事をこなして終わらせた。
 そうすると、時刻は昼近く。

 さて、今日の昼ご飯はどうしましょ?

 テーブルに勢揃いした我が家の面々。
 遅くまで勉強して昼頃に起きてきた弟がアクビをかみ殺し、妹は弟の寝癖を指に絡めて遊んでいる。ハルちゃんはなにやら考え込み、私も昼をどうするか、と考えをめぐらせる。

「ふむ……炒飯でも作るか」

 凝ったものができるわけでもないし、残っていた冷ご飯を使わないといけないし――というわけで、炒飯でも作ろうかと立ち上がる私。

「待って」

 しかし、台所へ行こうとした私を止めるハルちゃん。
 そして、唐突にこんなことを言い出した。

「今日チラシが入ってたんよ。だからたまには宅配ピザでもとらない?」

 宅配ピザ……。
 瞬間、硬直する私と弟と妹。

『ピザ!?』

 そして3人、声を綺麗にハモらせる。

「え? ……何? ピザ嫌い?」

 脳裏に蘇る苦い記憶。間違いなく弟と妹も思い出している。
 ハルちゃんは知る由もない、私たちには苦い過去があったのだ。

 ――――――――――――――――――――――――――――

 あれは私が中学3年の頃だった。
 弟と妹はまだ7歳で、ぴっかぴかの小学1年生。
 その日は日曜日で、家族全員が出かけるでもなく家に居て、今日みたいに『昼ご飯、何食べよっか』などと協議していたのだ。
 何なら外へ食べに行きましょうか、などといった会話もしていた。
 すると当然、何を食べに行こうか、という話になる。
 そこで弟と妹が小学生になった直後なので、入学祝と言うことで『何をたべたい?』と意見をもとめてみた。
 弟と妹は双子で、この頃は二人とも女の子みたいに可愛らしいそっくりな顔を突き合わせて頷きあい、一枚の広告を取り出しこういった(今はもう似てないが、小さい頃はそっくりだった)。

「ピザをたべてみたいっ!」

 ピシッと場が凍った。そして恐る恐る皆がオヤジの顔をゆっくりと窺う。
 オヤジは和食以外あまりに口にしない。
 夕ご飯だって母がカレーを作っても口にはせず、焼き魚やおひたし、煮物といった和食をオヤジ用に別で作る。
 当然外食もオヤジの好みを考慮にいれねばならないわけで、それゆえ宅配ピザなんてシロモノは、今まで「食べてみたい」などということすらできなかったのだ。

(なんて勇気のある奴ら……)

 密かに私は弟と妹を褒め称えた。
 だってそう。ピザの広告ってやつはとっても卑怯なのだ。
 色とりどりの具をのせ、香ばしそうに焼かれたピザは、見るだけで美味しいんだ、と主張して憚らないオーラを発散させている。
 食べてみたい、という憧れ、欲求は確かにあった。
 しかし、このオヤジと言う障壁が邪魔をする。
 頭の固い、気に入らないことがあればすぐ暴力を揮うこのオヤジが邪魔なのだ。
 しかし、奇跡は起きた。

「ま、たまにはええやろ」

 相変わらず難しそうな顔をしながら、苦虫を噛み潰したような表情で言葉を発したオヤジ。これはまさに奇跡としかいいようがなかった。

 ピザが食える! 宅配ピザがやってくる!

 私の心は躍った。
 長年、憧れ続け、広告で見ることしかできなかったピザが食べられるのだ!
 うぉー、弟よ、妹よ、お前ら偉ぇ!!

 許可が下りればすぐさま協議。
 広告1枚をテーブルに広げ、これを注文しよう、いやこっちにしようとワイワイ騒ぐ私と弟と妹と姉。

「これ、コーンとかベーコンがのってるやつ、これにしようよ!」

 と私が言えば

「ミートボールのってるコレがいい! ミートボール最強やんっ!」

 などとわけのわからないことを弟が言う。
 それを見かねたオヤジが、

「五月蝿い! 小さいやつで好きなもん、それぞれ注文したらええやろ」

 と一喝。
 Sサイズでも1〜2人前、と書かれている。
 姉は2,3人前は食べるだろうし、父と母もいるのだから、確かにSサイズ4枚はちょうど良いかもしれない。
 納得した私たちは、それぞれが食べたい1枚を迷いながらも選び抜いた。
 というか、ここでオヤジの機嫌を損ねたら台無しだと言うことを、皆が暗黙の了解として理解していたのである。

 さぁ、注文が決まれば電話だ。

 何故か電話は私の係りとなった。下っ端って辛い……。
 何せピザの注文なんて初めてだ。
 私は憧れの女の子に電話するときよりも緊張の面持ちで受話器をとった。

「はい、こちら宅配ピザの○○と申します。ご注文でしょうか?」

「は、はい!!」

 可愛らしいお姉さんの声が受話器の向こう側から聞こえてくる。いや、見ていないからわからないけど、絶対この超えは可愛いだろう、と私は確信した。
 ますます緊張した私は、無意味に大きく、かつ裏返った声で返事したもんだから、

「何緊張しとんねん、あのボケ」

 と、姉が舌打ち混じりに吐き捨てた。なら代わってくれっ! とは口が裂けてもいえない。――言ったらほんとに裂かれるからだ。

「ご住所とお名前をお願いできますか?」

 まずは注文だろうと思い、頭の中で必死に整理していた全員分の注文が、一気に吹っ飛ぶ。まぁもう一度聞けばいい。とにかく住所と名前……。
 頭の中がぐるぐると無茶苦茶に渦巻きながらも、なんとか住所と名前を告げた私。
 すると宅配ピザのお姉さん、とんでもないことを言い出した。

「申し訳ありません、○○の地区は宅配担当区域外となっておりまして……」

 ・
 ・
 ・

 宅配担当区域外?


 なんじゃそらっ!!


「え? え? でも広告が来ていて……」

「え、そうなんですか、それは申し訳ありません。ですが、区域外でして……」

 区域外だという単語を繰り返す。
 確かにここは田舎だ。山奥だ。
 しかし、広告が届いている以上、注文できると思うじゃないか。
 ……なんだったんだ? どれを注文するか、喧々諤々と激しくも楽しく話し合ったあの時間はなんだったんだ!!?

「なんや? なんか問題あるんか?」

 様子のおかしい私に気付き、声をかけてくる姉。

「いや、なんかウチ、担当区域外やから配達できへんとか言うてんねん」

「なんやてぇッ!!」

 ひぃぃっ!
 鬼だ。鬼が吼えたっ!!

「おい、ゴラァッ!!」

 受話器をひったくり、吼える姉。

「おんどれ届けられんってどういうこっちゃ!! 広告は届けても商品届かへんかったら、ワレそれ詐欺やないかッ!! おおッ!!?」

 吼える吼える。その姿、檻を食い破る猛獣の如し。
 相手の声は聞こえないが、間違いなくあの受話器越しのお姉さんは怯えているに違いない。
 弟と妹も身を寄せ合って震えていたりなんかする。
 耐えろ。うちでは日常茶飯事だ。
 かく言う私も、姉の顔を見ることができずに目を逸らしたりしてるケド。

「おいコラッ!! なんとか言えやッ!! ……ちっ、切りやがった」

 一旦受話器を置き、再度電話をかけようとする姉。
 しかし――

「もうええっ! やっぱりピザなんてもんは信用ならんのじゃっ! 日本人は米じゃ! 米食うてなんぼなんじゃ! イタ飯なんぞ食うたらあかんのじゃっ!」

 クワァッと目を見開き、仁王立ちするオヤジ。
 つかあんた、ピザなんてもんは信用ならんって、どういう日本語だよ。
 それにオヤジ、アンタは朝だけはパン派だろう……。

「なんやクソオヤジッ! しゃしゃりでてくんなや! おとなしくすわっとれやっ!」

 姉は先ほどのお姉さんに納得がいかないらしく、オヤジと言えども噛み付くほどの不機嫌の極み。
 しかしそれはオヤジも同じ。

「なんやとワレ! 誰に向かってその口聞いとんじゃボケッ!!」

 ひぃぃいっ! ヤクザの抗争は表でお願いしますッ!! ――と心の中で絶叫しながら弟と妹を誘導しながら避難する私。
 お互いが空手と柔道の有段者、という極めてハイレベルな攻防が、恐ろしく口汚い罵声と共に繰り広げられる。
 我が家の居間は、そりゃもう、もの凄いことになってしまったのであった。
 当然ピザなんてものは頼めるハズもなく……。
 この一件は私と弟と妹にとって、忘れることの出来ないトラウマとして刻まれたのであった。

 ――――――――――――――――――――――――――――

「……というような事があったんよ」

 と、ハルちゃんに説明してあげる私。
 ハルちゃん、面白そうに頷きながら「あのお姉さんとオジサンならやりそうっす」などと納得する。つか、納得できるという事実が恐ろしい。

「でも、もう引っ越しして区域外ってことはないし、過去は過去としていいんじゃない?」

 ま、その通り。
 というか、今ならもう目と鼻の先に宅配ピザの店があったりするので、注文して自分の足でとりに行ったほうが早かったりするし、第一安上がりでもあったりする。

「じゃあ、ミートボールのやつ頼もうか。最強なんだろ?」

「頼むから小さい頃のセリフをいちいち覚えておくの、やめてくれよ……」

 弟を苛めつつ、過去は過去の思い出として流すことにして、私と弟と妹は11年越しのピザを注文することができたのであった。
 もう初めて食べると言うわけではないが、やっぱり宅配ピザは広告の見た目通りうまかった。宅配したのは私だけど。



posted by BlueTasu at 00:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 過去 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
地味な感想だけど、弟、いい味出してるね。つか前から思ってたけど、弟ってイイ奴でしょ?なんつかまぁBlueTasuさんもイイ奴感はたっぷりなんだけど、弟もまた「一緒にいる人間に安心感を与えるオーラ」が出てる感じがする。つか「不安感を与えまくるオーラ」が出てる方が二人も身近にいたからこそ余計そう感じるのかもしれませんが。

時折BlueTasuさんが見せる兄弟愛も、彼相手なら納得かなぁと思ったりしますね。え?某Mで始まる携帯ゲームの話?んな話は忘れたよ・・(^^。
Posted by クリス at 2007年02月25日 22:08
憧れの宅配ピザ!

分かります、分かりますよ〜。自分の実家も「圏外」でしたから。その悔しさのあまり、スーファミソフト「MOTHER2」では暇があれば注文してました。

今ではアパートなら「圏内」なので時々Mサイズを頼んで一食で平らげたりしてますが、大人数で食べた方が楽しい食べ物ですよね。一つのものをみんなで分け合う連帯感のようなものが、なんとも(^^)。
Posted by トムニャット at 2007年02月25日 22:57
 コメント、毎度ありがとうございます。

>クリスさん
 弟は今も一枚隔てた壁の向こうで勉強を頑張っている――ハズです。たぶん。
 弟がいい奴かどうか、という判断はあまりつきかねるのですが、まぁ悪い奴ではないでしょう。
 見た目にはそこそこ男前な感じなのですが、如何せん、口をついて出てくる言動は馬鹿ですな。
 不思議系、とでも申しますか、常識人っぽいのに考えていることは混沌としているようです。

 つか、某Mで始まる携帯ゲームの話は、今日また書いてしまいました。
 裏切れませんなぁ、名前に反してさ。
 ほんと、どうしよう。

>トムニャットさん
 ここでは初コメント、感謝です。

 MOTHER2はいいですよね、どこにいてもピザ届けてくれてさ! とか思いましたよね! わかっていただけますか、ありがとう!
 ひとつのものをみんなで分け合う連帯感は、鍋とか、誕生日の際のケーキとか、日本では日々育まれているごく当たり前の、自然な感覚のような気がします。
 だからピザも美味しく感じられるのかもしれませんね。

 でもMのピザを一食は……食べすぎな気が……。
 チーズとか色々のってますし、結構アレっておなかにきませんかね?
 私は4切れが限界だったりしたのですが……。
Posted by BlueTasu at 2007年02月26日 00:42
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