2006年10月23日

No.216 The 銭湯

 今日もクタクタになって帰宅する。
 さすがに連日泊まりこみ、というほどではないが、それでも1日頑張って働けば、人間誰しも疲れがたまる。
 たまった疲れは洗い落とせ。
 これが日本人の思想、伝統だ。
 そう、疲れたときこそ水を惜しげもなく注ぎ込み、じっくりと適温に暖めた湯船に浸かりこむのだ。
 そして湯上り後はコーヒー牛乳でも飲んで、涼みつつ本を読みながらうとうとし始めたらあとは寝るだけ。
 そうすれば翌日、疲れも残さずまた元気に働けるってもんである。
 誰かも言っていたよな、風呂は命の洗濯だ、と。

「ああ、そういやすっかり忘れてたわ」

 帰宅早々、風呂に入ってサッパリさせたかったのだが、うっかりさんな母は風呂を掃除し忘れていた。
 時刻は8時半。今から掃除して水を張り、沸かしていたのでは10時になってしまうではないか。
 私が欧米人なら、シャワーで済ますところだが、日本人な私はシャワーごときで満足はできない。
 こういうとき、庶民の強い味方が存在する。

 かぽーん♪

 そんな効果音が非常に似合う、銭湯である。
 私のうちの近所には、そんなに大きくはないものの、サウナと電気風呂を備えた銭湯がある。
 150円支払うだけで誰でも利用できるこの場所は、町民の憩いの場として長く親しまれてきた。
 私も昔はこの銭湯を週に3,4回は利用していたものだが、最近ではめっきり行くこともなくなったものだ。
 でもまぁこんな状況である。利用しない手はないではないか。

「あれ? アニキどこ行くの?」
「あれ? お兄ちゃんどこ行くの?」

 帰って来たばかりだというのにまた出かけようとしている私を、弟と妹が目ざとく発見し、声をハモらせて質問する。
 風呂が沸いてないから銭湯へ行く。そう告げると...

「じゃあ俺も行く」
「じゃあ私も行く」

 と、これまた綺麗にハモった。さすが双子である。
 その時、携帯が鳴った。タカである。

「今から遊びに行くから」

 さすがミスター非常識。「行っていい?」ではなく、すでに「行くから」と決定事項となっている。
 今からは銭湯へ行くから、と告げると、「じゃあ俺も行く」 とのこと。付き合いの良い奴である……。

 私、弟、妹、タカ、タカの妹。

 なんと総勢5名で銭湯へ向かう。実に多彩な顔ぶれである。
 ちなみにタカの妹を見たのは久々であった。

「銭湯へ行くっつったら、私も行くって言うから連れてきた」
「こんばんわ〜。ご一緒させてくださいね〜」

 兄と違ってとても礼儀正しい妹さんは、ペコリと頭を下げて挨拶してくれた。
 この丁寧さのDNAが、なぜ兄にはまったくないのかが不思議でならない。

「こ、こんばんわ」

 タカの妹さんの登場で、いきなり緊張する弟。
 実は弟はタカの妹に惚れていたりする。
 この手のことには奥手なのか、まったくリアクションを起こそうとしないので、一切進展はしていないが……。

 このメンツが揃って銭湯へ行くのだ。
 何かないほうがおかしい。

 とりあえずは無事銭湯に到着。“桜湯” の暖簾をくぐり、女性陣とは別れ、番頭さんにお金を支払い脱衣所へ。
 脱衣所へ入った瞬間裸のおっさんが3名、前も隠さず談笑していた。
 ちょっと吐き気がした。パンツくらい履けよ。

 ともあれ服を脱ぎ、たたみ、鍵をかけ、いざ出陣。
 中からはちょろちょろと水音が聞こえ、視界には湯気がいっぱいにたちこめていた。うん、銭湯へ来たって感じだ。
 数名の先客がいたが、もう9時ということもあって数人しかいない。
 銭湯のマナーとして、まずは湯船に浸かる前によく身体を流す。
 それからタオルは湯船に浸けないように。
 あとはゆっくり湯船に浸るべし。
 気持ちいい〜……。疲れが湯に溶け出していくかのような錯覚を覚えるほどだ。極楽である。

「銭湯なんて、ひっさびさやなぁ」

 弟もリラックスしている。
 弟は今、受験勉強で忙しい。こういうところで疲れを癒すのも良いだろう。

「12、13、14、15、16……」

 一方、タカと書いてバカと読むもう一人のおっさんは、何故か腕立て伏せを始めていた。なんでやねん!

「筋トレしたら汗でるから、汗を流れ落とす風呂でやるのが効率的じゃね?」

 それがまぁ家の風呂場でなら良い。だがここは公共の場である。
 間違っても銭湯でやることではない!

「じゃあ勝負しよう!」

 腕立て50回、腹筋50回を真っ裸で行った後、タカはそう言い放った。
 何故 「じゃあ」 なのかはわからない。
 が、タカは何事においても勝負が大好きなので、こういう申し出はよくある。

「なんで風呂場に来て腕立て伏せで勝負せなあかんのだ」

「違う違う、銭湯らしい勝負しようぜ! そう、どっちが長く湯船に浸かっていられるか、我慢比べ勝負だ!」

「疲れをとりに来たのに、なんで疲れるようなことせにゃならんのだ。一人でタイム計って記録でも作っとけ」

「つまらん男やな〜お前は。そんなんだから2ヵ月後にハルちゃんにふられることになるんだぞ」

「不吉な予言をするなっ!」

「そう、お前が俺に負けたら予言どおりになてしまうだろう。もちろん逃げも論外である。くくく、どうする?」

 わけのわからんことを言う奴である。

「弟くんはやるよな?」

「別にええよ」(あっさり)

「はい決定!! 負けたら晩飯オゴリな!」

「……なんでそうなる」

 結局勝負をすることに……。

 唐突だが、湯船に長く浸かっていられる方法をご存知だろうか?
 湯船に長く浸かりすぎると逆上せてしまう。
 それが我慢比べの負けとなってしまうわけだ。
 ならば逆上せないためにはどうすればよいか?
 そんな方法は存在しないが、逆上せ難くする方法はある。
 頭を冷やせばよいのである。
 頭が湯だってしまうから逆上せてしなうのだから、タオルを水に浸すなどして頭を冷やせば、体はあったまっても平気なのだ。

 確か、NHKの朝の連続テレビドラマでやっていたことである。
 私は毎朝NHKの連続テレビドラマを観ていたので知っていた。
 勝負は最初から決していたのである。

 1位、私。
 2位、弟。
 3位、タカ。

 言いだしっぺが負ける、典型的な例であった……。
 タカは10分ちょいしかもたなかった。
 浸かる前に筋トレなんかするからだ。

「じゃあ、根性なしのオゴリで晩飯ということで」
「ゴチになります、根性なしさん」
「ありがとう、根性なしさん」
「ご馳走になります、根性なしの兄さん」
「お前ら根性なし根性なしってうるせぇッ!!」

 今日は皆晩飯を食べてきていたので、明日、タカのオゴリで食べに行くこととなった。何故か妹とタカの妹も一緒で。

「あー、コーヒー牛乳がうめぇ」

 湯上り後、特にタカを泣かせたあとの一杯はうまい。
 疲れも吹っ飛んだし、今日は良い気分であった。
 たまには銭湯もいいね。



posted by BlueTasu at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
タカの妹君を見たときのBlueTasu弟の気持ちがめちゃイイ感じ。つか「LOVE」みたいな?つか「オレ実は今幸せかも!?」みたいな。そういう感じって狙って得られるもんじゃないからスゲェ羨ましい。やっぱ恋愛は片思いだぜ!
※深い意味はないですよ(^^;。

でもきっと風呂上がりの濡れた髪とか見てグッと来ちゃってるんだろうな。いいな〜。スッゲェいいな〜。僕もそんなシチュエーション体験したい!つかイメクラ?
※行ったことも行こうと思ったこともないけど(^^;。

密かにこちらも応援したい感じだ。
Posted by クリス at 2006年10月24日 22:02
本日、結局都合がつかずお食事会はお流れとなり、タカの妹に会う機会がなかった弟は軽く落ち込んでおりました。
そんなに好きならもっと積極的に行けよ、と思うのですが、他人の恋路に手を貸すのは余計なお世話な感じもしますし、生暖かく見守りたいと思います。

万が一うまくいっちゃって、結婚なんてことになったらタカが血縁関係者になる、という点だけは認めがたいものがありますが……それはさすがに飛躍しすぎですね。

風呂上りの女性っていいですよね〜。
濡れた黒髪が月明かりの下で光沢となった反射して……とか想像するだけで以下自粛。
あかんあかん。
Posted by BlueTasu at 2006年10月24日 23:57
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