2006年09月09日

No.173 彼女のかれぇ

 19時30分。本日の業務が終了した。
 今日も疲れた。最近上司が私を使うコツでも覚えたのか、ピンポイントにサボれないよう、コキ使われる。
 くそ、あの野郎、覚えてろ! 私が完全犯罪のトリックを思いついた日が奴の命日だ!
 などと私が暗い情熱を燃やしながら事務所前のタイムカードを押したとき、事務所の扉が開き、ある女性が出てきた。

「あれ? Blueさんも今終わり? 奇遇やね」

 ハルちゃんの友人、ゆうさんである。
 ハルちゃんの友達ではあるが、私はゆうさんがちょっと苦手であった。
 なんというか、姉と同じような匂いがちょっとだけ漂っているからだ。
 ちなみにハルちゃんは確か定時に終わっていて帰宅したのを目撃している。

「終わりだよ。じゃ、お疲れ様」

 私は苦手なゆうさんにそっけない挨拶を交わし、その場を去ろうとした――のだが

「ちょい待ち! いいこと思いついた!」

 ガシっと右肩を掴まれる。痛い。普通に痛い。右肩は昔骨折したせいで強く掴まれるとまだ痛いのだ。

「痛い、痛いから!」

「なんや、そんなに強く掴んでないで? 弱いなぁ」

 ――が、そんなことを知らないゆうさんに 『弱い』 と決め付けられてしまった。
 反論したいけど、なんか言い訳っぽくて見苦しいので黙っている。

「とりあえず、私の家行こう! な」

 な、じゃない。何を言ってるんだ、この人は。

「今日、ハルが食事当番やねん」

「――は?」

「私ら、同じマンションに住んでるやんか。で、炊事は面倒やから交代制やねん。で、今日はハルが当番。だから食べにおいでよ」

「初耳です」

 ハルちゃんが会社近くのマンションで一人暮らしをしているのは知っていたが、ゆうさんと同じマンション、というのは初耳であった。
 つか、2人ってそんなに仲良かったんだな……。

「というわけで来なさい。ハルの料理、食べてみたいやろ?」

「んー。でもいきなり訪ねたら迷惑でしょうし、それに3人分は用意してないでしょ?」

「ああ、それは大丈夫。今日カレーって言ってたから絶対2日分くらい作ってるから」

「なるほど。んー、でもいいのかなぁ……」

「ええって言うてるやろ。男のくせにうじうじ悩むまんと、ガッと押しかけて飯くって、 『俺のために毎朝味噌汁を作ってくれ』 とか言うたらええねん」

 ――いきなりプロポーズですか。

「毎朝作ってもらいたいほど、ハルちゃんの手料理は美味いんですか?」

「いや、微妙」

「……」

 ともあれ、ゆうさんの強引さに私が勝てるはずもなく、結局ハルちゃんのマンション(部屋はゆうさんのだけど)に押しかけることとなった。
 つか、私はラーメンも好きだがカレーも好きである。
 ストレートな物言いのゆうさんをもってして、微妙と言うお味はいかがなものか?
 カレーの王子様だったらどうしよう……。
 期待半分、不安半分で私はゆうさんの部屋にお邪魔した。
 これで場所がハルちゃんの部屋で、ゆうさんがいなかったら最高なんだけどなぁ。

「悪いね、ハルの部屋じゃなくて」

 ゆうさんは私の心を読んだかのように言ってきた。むぅ、勘の良い人だ。

「ただいまー」「おかえりー」

 表札にはゆうさんの名字。ドアを開けるとカレーの匂い。そして奥からハルちゃんの声。
 どうやらゆうさんの言っていたことは本当だったようだ(まだ疑ってた人)。

「ほら、ぼーっとしとらんと入ってきぃや」

「あー、じゃあ、お邪魔します」

 入ると横手、すぐにキッチンが見える。そしてハルちゃんも見えた。
 それだけでめっちゃ幸せな気分になった。だってエプロン、似合いすぎ!

「え……あれ? Blueさん? ええ!? えええええ!? なんでー!?」

「拾ってきた」

 ……ゆうさん、ひでぇ。

「うそぉ!? 落ちてたん!?」

「1羽300円やった」

「……ヒヨコかよ。つか何、この会話」

「いつものことや。気にせんといて」

 いつものことなんだ……。

 まぁそんな感じで食事の準備は進められていく。
 その間、ハルちゃんは終始 「えー、どうしよー、自信ないー」「なんで来るなら来るって連絡くれなかったんよー」「うあー」 とか呻いてばっかりだった。でもまぁ拒まれている様子はなかったので一安心なのでした。

 食卓に中央にはカレーが入った鍋。そしてコーンとトマトとレタスが鮮やかなサラダと、飲み物。
 カレーのスパイスの香りとサラダの鮮やかな色彩が食欲をそそる。
 しかも 

「口に合わなかったらごめんね」

 と申し訳なさそうに言ってくるハルちゃんが非常に可愛らしい。やばい、私、今かなり幸せです!

 大丈夫、口のほうを合わせますよ

 などといったキザなセリフはでなかったけど、ハルちゃんの手料理が食べれる、という今のこの現実に、私は何度も心の中でゆうさんに感謝した。

『じゃ、いただきまーす』

 3人、手を揃えて合唱。
 まずはカレを一口……

 ・
 ・
 ・

 辛ッ!!?


 美味しいとかまずいとか、そういう問題ではなく、私の舌にはこのカレーは辛すぎた。
 誰だよ、カレーの王子様とか言った奴は!
 そうだった、うかつだった……ハルちゃんは辛いものOKな子だったんだ。
 そんなハルちゃんが作るカレーが、甘口なハズなどないではないか。
 でも私、普通の辛口程度なら食べれるんですが……。
 一体どれだけの辛さをこのカレー鍋に叩き込んだのか?
 ハバネロ入ってんじゃないか、これ? つか、なんで2人は平然と食べれるの?

 スプーンが思わず止まる私。それに気付き、心配そうに私を見つめるハルちゃんと、ついでに面白そうに見ているゆうさん。
 ここでグッと飲み込み、すました顔して 「美味しいよ」 とか言えれば超男前!

「ぐふッ!」

 ――なんだけど、むせました。ヘタレです……ヘタレと呼んで下さって一向に構いません。うぅ……。
 結局辛すぎて私はほとんど食べれず。でもサラダは美味かった!

「野菜ちぎって盛り付けただけだよ……」

 ごめんなさい、本当にごめんなさいっ!!
 しきりに謝ってくるハルちゃんだったのですが、申し訳ない気持ちだったのは私のほうなんです!!
 本当にごーめーんーなーさーいーっっ!!

 ・
 ・
 ・

 もう呼んでくれないだろうなぁ……。




posted by BlueTasu at 00:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マイルーム移動で弾かれ、ロックされてしばらく入るなと言われてシュンとなったクリスですまいど。

つか「オマエは幸せスギル!」と言葉を荒げたくなるほど幸せですねぇ(^^。思わず口元がにやけてしまいました。つかPSUなんざほっぽってこちらにウェイトを掛けるべきなんちゃうん?というか、

 辛いカレーくらい食え!

というのが本音かも。死んでも食うねなんつの「裸プロン?」
いや違うけどそこは脳内補完の方向で、でもしここに書かれている通りのセリフのやりとりだったとしたら、

 「あんた惚れられてるね」

だよマッタク。いいなぁワカイモンは。っていうかラブコメみたーーーい。つかマンガなら辛くてもガマンして食べて気を失って思わず救急車を呼ばれて病院にかつぎこまれ、気づくととなりでハルちゃんが林檎の皮をむきながら「あ、気づいた?」とか言って微笑みかけてきて、「ん、、ここは?あれ、なんでオレここにいんの?」
「んもう、重かったわよ、ゆうさんと二人でもやっぱり男の人ね、ふふ」とか言われちゃって、「林檎食べる?」とか言われて「食べさせて欲しい?」とかまで言われて思わず照れて「自分で食べられるよぉ」とか言っちゃったあとちょっと後悔して「食べさせてもらえば良かったかな」とか思っちゃったりして幸せ満面の時にいきなりガタッと扉が開いてタカとゆうさんと妹がガン首揃えて「緊急入院やって?」とか「盲腸か!?」とか「ごめんねBlueさん、でもあんた幸せそうな顔して気を失ってたんよ、ニヤリ」とか言われて、なんつかどうしていいかわからなくなって赤い顔でうつむいてるところに先生が来て、「その様子ならもう大丈夫ですね」とか言われて、ハルちゃんに「帰ろっか」とか言われて「うん」とか言ったりして、周りから冷やかされて、次の日会社で「ホテルにしけ込んだ!」とか尾ひれがついてたりして、案外口では「んもう!」とか言いつつそんなに嫌じゃないそぶりとか見せられちゃって、余計ハルちゃんのことが好きになっちゃってその日一日ボーっとして過ごしたら帰り際またゆうさんから声かけられて「今日は昨日とは違うってさ、Blueさん、今日もくるでしょ?」とか言われて、なおかつ「今日はハルちゃんの部屋だぞ」とか付け加えられて、ドキドキがメーター振り切っちゃった上に途中でゆうさんが「あ、急用思い出した」とか言い出して「Blueさん先に行ってて、部屋は○○号室ね、これ部屋の鍵、あこっそりスペア作ったりしないように!ニヤリ」とか言われて「そんなことするか!」とかちょっと照れて反論しつつも言われてみればスペアとか作っちゃいたいかもなぁなんて遠い目をしつつ部屋についてベルを鳴らし、「Blueですけど・・・」とか言ったら「今日は知ってたから驚かないよ〜」とかインターホンから見えない笑顔が聞こえてきて、「おじゃましまーす」「あれ?ゆうさんは?」「なんだか知らないけど急用で遅れるって」「ふーん」とか言ったら急にお互い沈黙しちゃって、「あの」「あの、」とか二人して同時に話し出そうとしたら「ハルちゃんから」「Blueさんから」とかこれまたカブって、そんでもって一緒に笑い合ったりしたあと「ごはん作ってる途中だから・・・」とか言ってキッチンに戻るハルちゃんの背中をじっと眺めてたら思わず後ろからそっと抱きしめたくなっちゃったりして、「ハルちゃん・・・」とか声を掛けたら向こうも緊張した面持ちで「え?何?」とか言って振り向いたところをギュッと抱きしめちゃったりなんかした瞬間に「ガチャッ」とドアが開いてゆうさんが「あーあーホントにやってるかね」とか言ってもう引っ込みつかなくなって熱くなってるもんだから「オレと付き合って下さい!」とか言って思わず右手を差し出したりして、そこで「え?わたし?」とかゆうさんがチャチャ入れて来たりして、それをハルちゃんが軽くにらむと同時にBlueさんも「いやいやそのハルちゃんに・・・」とかうつむいたりして、ハルちゃんも一瞬無言になりつつも「えっと、、、あの、、、わたしでよければ」とか笑って手を取ってくれたりしたりするのんか!!そうなんかぁぁぁぁぁ!!!!

いいなぁもう。結婚おめでとう!
Posted by クリス at 2006年09月09日 05:01
BlueTasuさんの記事は勿論なんですけど…クリスさんの素晴らし過ぎる妄想(失礼!)ぶりにも笑わせて頂きました(⌒∇⌒ )
もう何も言う事はありません(笑)

あ、でも…この件が原因で、その後ハルさんと気まずくなったりしていなければ良いなぁ、ってかなり心配なのですが…。
Posted by 佐緒 at 2006年09月09日 22:16
>クリスさん
……えっと。
……あー、ありがとう。

>佐緒さん
何も言うことはない、というより、何も言えないよなぁ……とか思うわけで。
コメント嬉しいし、ありがたいし、面白いのですが、いろいろ無理です(^^;

ハルちゃんとは気まずくなったりとかはないので、ご心配どーもでした!


Posted by BlueTasu at 2006年09月10日 00:10
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