2006年03月22日

No.7 恐怖のしりとり

うちにはPSPが2台ある。
ひとつは私の、もうひとつは弟の。
このPSPは昨年暮れに発売した、モンスターハンターポータブルのために購入したのだが、PS2でドスが発売したため連動するとき以外はまったく使わなくなった。
だからPSPもホコリをかぶっている――のではなく、姉と妹が貸して欲しいということで貸してあげたのだ。

しかしこの二人、いったいPSPで何をやっているのだろう?
特に姉――気になる。
気になるが、本人に直接聞くのは、ヤクで中毒症状の人を閉じ込めた個室へ丸裸で突貫する、に等しい行為なのでとても危険。
そこで妹に聞いてみた。

「どこでもいっしょをやってるよ。この間しりとりもしたよ」

あっさりと明快な答えが返ってきた。
どこでもいっしょとは、ポケピと呼ばれる人語を解する動物に言葉を教えることで発生する、ちょっとズレた会話を楽しむゲームだ。たぶん。

妹が言ったしりとりとは、教えた言葉を使ってしりとりすることができる遊びで、相手がポケピたちに普段教えている言葉などがわかってしまう。
人によってはとても恥ずかしいと言えよう。
しかし趣味の合うもの同士でやれば、話が弾むのは必然で、コミュニケーションゲームとして結構面白かったりする。





しかし気になる。
姉はいったいポケピとどんな会話を交わしているのだろう?
普通の会話は想像することができない。
気になる、すっごく気になる。
まずいと頭で分かっていつつも、好奇心が抑えきれない。

このときの私の心理状況を一言で表すのであれば、怖いもの見たさ、であっただろうか?
とうとう私は好奇心が恐怖を上回るのを抑えられず、妹に言った。

「PSPを一旦返してくれ。姉としりとりしてみたい」

恐怖の幕開けであった。


――――――――――――――――――――――――――――


「お姉ちゃんとしりとりするなら、“す” の単語を強化しておいたほうがいいよ」

 妹がアドバイスを送ってくれた。
 勝ち負けにこだわるゲームではないのだが、あくまでこだわる人もいる。
 姉は負けず嫌いの性格であるし、しりとりに勝つために同じ文字で終わる言葉を連続で使用する、という戦術を用いたとしても不思議ではない。

「わかった、ちょっとだけ強化しとく」
「あんまり変な言葉、教えないでね」
「気にいらなかったら、あとで忘れさせてくれ」

 このとき、私は深い意味を考えていなかったのである。


 妹のポケピはネコで、名前は 『はらきり』 であった。
 妹は結構まともだと思っていたのだが、どうやら考えを少し改める必要がありそうだ。

 ともかく、忠告通り“す”で始まる単語を強化しておく。
 妹が はらきり に教えた単語を含め、“す”で始まる単語は以下のとおりである。
 尚、しりとりは濁音を判別しない。

・妹が教えていた単語
 スピッツ(好きな歌手)、スーパーマリオ(ひげおやじ)、すじこ(妹が好きな食べ物)、スイカ(妹が好きな果物)

・私が教えた単語
 スリの銀二(桃鉄)、スズカマンボ(競走馬)、杉山佳寿子(声優)

 以上の7種類であった。
 とりあえず準備は万端である。
 私は姉の部屋をノックした。
 姉は何があったかは知らないが非常にご機嫌で、しりとりをしようと言うと、微笑みながらあっさり「ええよ」と言ってくれた。

 不気味である。
 しかし、下手に機嫌が悪いよりはずっといい。
 このとき、姉の機嫌が良かった事を私は神に感謝した。

 姉のポケピはロボットで、名前は 『ポンコツ』 である。
 妹の“はらきり” とどちらがまともであるかは、あまり考えないようにしておく。

 しりとりの先行は姉であった。
 姉は、「うーん、どっちにしよかな?」 と迷っていた。

 順番が来る間、ネコの はらきり はウキウキしながら待っていた。
 しかし私には、そんなウキウキした気分はどこにもない。
 むしろ今、どんな単語が来ても耐えれるよう、心の武装をしていた。

 私の予想では、恐らく会話で使われる単語は格闘技中心であると思っている。
 姉は学生時代、柔道をしていた。
 またプロレスとかK-1とかも詳しく、そういった単語をポケピに教えているハズ、と考えていた。

 しかし、まったく甘いと言わざるを得ない。
 しりとりの第一声、姉が投げかけてきた単語は...



 死ね



 であった。

 ・
 ・
 ・

 一瞬にして氷結し、心の武装は完膚なきまで叩き潰された。
 あんた、ポケピに何教えてるんですか!?
 私はPSPを持ったまま畳の床に倒れこむ。

「なんや? お前の番やぞ。“ね” で始まる単語はないんか?」

 姉は笑みを浮かべ、聞いてきた。
 今更ながら、その笑みは悪魔のソレであったことに気付く。
 私は震えながら、死ね に続く単語、『ネコ』 を送り返した……。
 すると、



 殺す



 と返ってきた。
 私は今すぐ電源を切り、一刻も早くこの死刑執行部屋から逃げ出したかった。
 しかし、それをすればもっと酷い目に会うのはわかっている。
 私は虚ろな目で心を押し殺し、感情を浮かべないようにしながら、しりとりにのみ集中することにした。
 そして、“ん”で終わる単語があれば即選択し、即退散しようと決めた。

 以下は、その後のしりとりのやりとりである。


 姉.殺す
  ↓
 私.スイカ
  ↓
 姉.狩り殺す
  ↓
 私.スピッツ
  ↓
 姉.突き殺す
  ↓
 私.スリの銀二
  ↓
 姉.絞め殺す
  ↓
 私.スーパーマリオ
  ↓
 姉.押し殺す
  ↓
 私.スズカマンボ
  ↓
 姉.褒め殺す

  ・
  ・
  ・

 妹が す を強化しろといた意味がわかった。
 初手以外、全ての単語が“殺す”で締めくくられているのである。
 なんというジェノサイドなしりとりであろうか?

 しかしこの“殺す”の連鎖に終わりをもたらしたい。
 す、から始まる残る単語は2つ。
 “すじこ” と “杉山佳寿子” である。
 どちらも“こ”で終わるし、姉は“こ” を初手に “殺す” で使っている。
 す、ばかりで攻められたが、今度はこちらの反撃である!
 一矢報いねばならない。

 私は一縷の望みを託して “杉山佳寿子” を送信した。
 すると姉は緩やかな笑みを浮かべ、



 殺す殺す



 と返信してきた。
 私はやはり床に突っ伏しながら、すじこ、と送信すると、



 殺す殺す殺す



 と返ってきた。
 文字通り、デッドエンドである……。


 死ね、と死刑宣告されてしりとりが始まり、ネコは殺され、スイカは狩り殺され、スピッツは突き殺され、スリの銀二は絞め殺され、スーパーマリオは押し殺され、スズカマンボは褒め殺され、杉山佳寿子とすじこは無惨に殺されまくって終了した。
 生き残ったのは褒め殺されたスズカマンボのみである。
 天皇賞馬、奇跡の生還である! だからどーした! うけけけけ。


「もっかいやるか?」


 姉の再戦勧告を受ける元気は、当然私には残っていない。
 静かに断り、バイオハザードのゾンビのような足取りで私は部屋を出た……。


 完。


posted by BlueTasu at 00:29| Comment(4) | TrackBack(0) | ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
殺すx∞ はありなんですか?
というかお姉さまは相手をいつも殺す妄想で充満しているのですか?
あとスズカマンボにした褒め殺すだけとても良い響きに感じます。むしろそんなお姉さまにどんな褒め方をされるのかそっちのほうが興味津々ですが。
あ〜うちもPSPほしいよぉ〜(T▽T)
Posted by ビリーヴ at 2006年03月22日 01:25
ビリーヴさん、いつもコメントありがとね。
励みになってマス。

どこでもいっしょ(以下どこいつ)しりとり、は教えた言葉を全て単語として覚えます。
だから教えた言葉が動詞であろうが形容詞であろうが関係なく使えてしまいます。
どこいつ、のしりとりで勝とうと思うものはあまりいないと思うのですが、勝ちたければああいう語尾を統一するのは有効です。
実際、7種類用意したにも関わらず私は殺されましたので……。

後で聞いたところによると、姉の職場でどこいつが流行っており、しりとりでの勝負が熱いんだとか。
実際対戦した私に言わせれば、熱いというより薄ら寒いものが背中に流れましたよ……。

競馬ファンとして、スズカマンボだけが生き残ったのは私も嬉しいです。
どんな褒め言葉を投げかけるのかは想像したくないですけどね……。
Posted by BlueTasu at 2006年03月22日 20:19
我々は事態を甘く見過ぎていたのかもしれない……。

衰弱堂の目からは思いがけず涙があふれております。

……笑いすぎて。
Posted by 衰弱堂 at 2006年03月23日 22:18
そ、そこまで笑わなくても……。
Posted by BlueTasu at 2006年03月26日 02:41
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