2007年06月13日

No.401 父、退院す

「やかましわっ! あっち行け! ワシは元気じゃ! どこも悪くないわぃっ! 来るなら今度は酒持って来いッ!! そしたら話くらいは聞いたるわッ!」

 そう言って様子を窺いにきた主治医を追い払う父に、医者は文字通り匙を投げ、

「もういいよ。退院してくれ」

 と言ったのであった。
 というわけで、オヤジは晴れて退院することになってしまった。

「せめて一週間くらい粘ってほしかったわ……」

 という、ごもっともな意見は母の口からである。
 妻がそんなことを言っているとは知ってか知らずか、オヤジは不機嫌の極みであった。

「飯はマズイし酒も飲めん! 煙草も吸えん! 病院なんか二度とくるかッ!!」

 骨折したはずの腕をバシっと逆の手で叩き、指で凸マークをして去って行く患者というのもそういないであろう。
 タクシー代がもったいないので迎えに行ってやってくれ、という母の頼みもあり、午前中だけ休みを取って迎えに来た私は頭を抱えた。

「オヤジ、恥ずかしいから おいて行くぞ」

「だれが老いるか!! まだまだ若いわッ!!」

「いや、漢字違う……そんなこと言ってねぇ……」

 かくて、病院でもっとも五月蝿く、厄介極まりない患者は退院し、病院はいつもの平穏な日々を手にしたのであった。

 ――――――――――――――――――――――――――――

 昼。
 午前中休んだせいで仕事に追われ忙しい中、着うたが鳴り響く。

『かぁ〜さんが〜 よなべ〜をして てぶく〜ろ編んでく〜れ〜た〜』

 珍しいことに、母である。
 今日、退院した父を送ったその礼だろうか?
 そんなことを思いながら電話にでる。

「あのアホ、また病院行ったわ」

 一言目、それ。
 あのアホ、とは言うまでもなく オヤジ と書いてアホと読む。

「……なんでや?」

「退院して調子こいて酒かっ喰らって、酔っ払ってな」

「うん、それで……」

「『あのバカ娘の腕を今度はワシが折ったるんじゃああ』とか言うて道場行って練習しようとしてな」

「酔っ払いながら練習か?」

「そうや。で、『柔道の基本は受け身じゃああ』 とかなんとか言うて、まだくっついてない腕のほうで受け身とって悶絶しよった」

「……もうあれだな、脳外科でいじくりまわしてどうなってるか調べてほしいな」

「まったくやね。それで酔いもいっぺんに覚めたらしくてな」

「よっぽどの激痛だったんだな」

「ギブスにヒビがはいったからって、それ治して貰いに病院行った」

「……それで?」

「そんだけ。あまりのアホらしさのため、誰かに言わないと気がすまんかったんや」

「……気、済んだか?」

「いや、全然」

「俺、仕事中やから、せめて弟にしてくれ。たぶん講義中だろうけど」

「わかった、そうする」

 ピッ。

 ・
 ・
 ・

 忙しさ極まりないというのに、つまらん電話で邪魔されてしまった。
 しかし、オヤジにつける薬はどこかにないのだろうか?
 アレの老後の面倒見るの、本気でヤだなぁ……。
 そんな暗黒の未来予想図を頭の中で描きながら、私は仕事に勤しむのであった。

 その30分後...

『とりあえず、色々言いたいことがあります』

 という一文のメールが弟から届いた。
 とりあえずメール、という時点でお前は母には及ばないのだよ。
 言いたいことがあるなら、母のようにすぐ電話すればいいものを。
 そう思いながら、即削除したのは言うまでもない。


posted by BlueTasu at 03:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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