2007年06月07日

No.396 父、入院す

 仕事中。
 忙しい午前中とあって、みんな自分のデスクに張り付くようにして仕事している中、鳴り響く私の携帯。
 着信それ自体はなんら珍しいことではない。
 仕事先の人からか? 今出かけている上司からか? 意表ついてハルちゃんからか? それとも姉のイタズラ電話か?
 仕事中にかかってくる電話と言えば大抵その4パターンである――が、今回のその電話は誰にも当てはまらなかった。
 着うたを聞けばわかる。

『かぁ〜さんが〜よなべ〜をして、てぶく〜ろ編んでくれた〜♪』

 この着うたは私の母のものだ。
 ちなみにこの着うたはその名の通り『かあさんのうた』で、これもれっきとしたDEENのカヴァーソングである。
 いやまぁそんなことはどうだっていい。
 問題なのはその電話の内容だった。

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 母から電話? 珍しい。
 そう思いつつ電話にでる。

「お父さん、入院することになったから」

 一言目、それ。
 電話は唐突で、しかし内容は鮮烈だった。

「オヤジが入院? どないしてん」

 その一言に気付いた社員、全員こちらを振り向く。
 私はそそくさと物陰にかくれるようにして会話を続けることにした。

 ――オヤジが入院

 とは言っても、冷静に考えればそれはさほど驚くことではない。
 オヤジは煙草を吸えば酒も浴びるように飲む。
 そしてもう結構な年だ。
 いつ身体にガタがきてもおかしくないだろう。

「それがねぇ……」

 母が珍しく言い澱む。
 なんだ? そんなに状態が悪いのか?

「おねぇちゃんとやりあってねぇ……なんだかエスカレートして、関節技極められてもギブアップしなくってねぇ……折れちゃったのよ、腕が」

 ……私が物陰で突っ伏したのは言うまでもない。
 それを目撃した社員の一人は、オヤジが死んだ、もしくは危篤状態なのだと勘違いしたそうだ。大笑いである。

 つか、関節極められてギブアップしないで骨折とは……父親の威厳とは、ここまでして守らなければならないものなのか?
 いや、まぁ父親に関節を決めてそのまま折る姉のほうが大概だが……。
 こちらの脱力状態を知ることなく母は続ける。

「それだけなら入院にはならなかったんだけど、『ちょっくら病院行ってくらぁ』って言って、出かけてね」

「うん、それで?」

「やめとけって言ったのに、その腕で車運転して事故っちゃったのよ」

「……アホやな」

「アホよねぇ」

「で、どれくらい重症なん?」

 事故の程度にはよるが、打撲や骨折している腕がさらに悪化している恐れがある。結構な重症なのではないだろうか? と私は推測した。

「うん、事故では大したことなかったんだけどね」

「なんだそりゃ……」

「だけどね、事故したから警察に事情聴取を受けているとき、ぎっくり腰になったらしくてね」

「いや、その話の流れ、わけわかんねぇ……」

「で、そのまま病院でしばらくお世話になることになったみたい」

 ……ということは

「結局腕の骨折と、ぎっくり腰だけか?」

「そうなんよ」

 なんか頭痛くなってきた。

「で、見舞いにでも行ったらいいのか?」

「違うの、あのね」

「うん」

「道場の修理を頼むわね」

「そっちか!」

「お父さんとおねぇちゃん、やりあったせいで壁に穴あいちゃったのよ」

「そんなん本人にやらせればいいやん!」

「お父さんは入院してるし、おねぇちゃんは壊すほうが得意でしょ?」

「いや、そんなこと言われても……俺仕事あるし。つか今も仕事中で」

「じゃあさ、弟でもいいから頼むわよ」

「そうか、弟がいたか!」

 ・
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 というわけで...

「今日、オカンが相談したいことがあるから本家行ったってくれ」

 早速弟に携帯で連絡を取ることに。

「え? 俺が?」

「それにマキちゃん、本家にもまだ顔出してないし、ついでに連れて行ってやってほしいしな。学校終わってからでいいから」

「そういやそうやな。わかった」

 修理のことは説明が面倒くさいので伏せておいた。
 つか、オヤジの入院もアホらしいので伏せておいた。
 弟よ、頑張ってくれ。
 家主である私はお前たちを食わせるために働かねばならんのだよ!
 一応、心の中でそれらしき言い訳をしておく私。

 こうして私の馬鹿馬鹿しい午前中の仕事が終わったのであった。
 つか、仕事やってねぇ……いつものことだけど。


posted by BlueTasu at 16:32| Comment(4) | TrackBack(0) | 日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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