2006年11月14日

No.232 One Day

 起きたら8時だった。
 出社時刻は8時半である。
 私の家から会社までは、車を飛ばして30分。
 
 ・
 ・
 ・

「うおおおっっ!!?」

 跳ね起きた。
 いつもはもう少しまどろみの時間を大切にするのだが、そんな悠長なことをしている時間はまったくない。
 布団を蹴り飛ばし、パンツまで脱ぎそうな勢いで脱ぎ捨て着替える。
 慌しく階段を転がり落ち、靴の踵を踏みながら車に駆け込みエンジンをかけた。
 目覚めから出かけるまでのタイムはおそらく新記録だろう。
 とにかく会社まで飛ばし、なんとか間に合った。

「Blueさん、頭、すっごい寝癖ついてるよ」

 出社早々、ハルちゃんに突っ込まれた。
 セットしている余裕なんてなかったんだよ……。
 案の定、他の人からも笑われた。おのれ……。

 ――――――――――――――――――――――――――――

 昼休み。

「おいBlue、お客さんだぞ」

 お客さん? 珍しい。

「誰?」

 私がそう聞くと、笑いながら、ただし目だけは笑っていないけど、先輩は言った。

「女の人だ。お前、ハルちゃんだけじゃ満足できんのか?」

「まさか、大満足」

「くっ、のろけやがって……とにかく表で待ってる。お前を呼べって五月蝿いんだ。どこの誰か聞いても、とにかく呼べ、の一点張り。俺はああいう女はお断りだよ」

 誰だろう?
 不思議に思いながら表に出ると……

「遅い」

 姉だった……。

「なんだ、姉ちゃんか……名乗らないから誰かと思った。なんで言わないんだ?」

「お前の血縁者だと思われたくない」

 そりゃこっちのセリフだ……。

「で、なんの用?」

「お前、本当に可愛げがないな。わざわざ携帯もってきてやったのに」

 あ、そう言えば朝の騒ぎで忘れてったな……。

「今日は遅番だから昼からなんでな。寝てたらお前の部屋で携帯鳴りっぱなしだった。あんまり五月蝿いんで壊したろかと思って1度壁にたたきつけたが、鳴り止まん。その根性に免じて、ついでにもってきてやった」

「投げるなよ……」

 見れば液晶にヒビが入っていた……2ヶ月前に買ったばっかなのに。

「ありがとうは?」

「……アリガトウ」

「よろしい。じゃあな」

 用件はそれだけ、と言わんばかりに携帯だけを渡すと、TRXの大音響と排気ガスだけを残し去っていった。

「すっげー女だな。お前の趣味、俺には理解できん」

「いや、違うから……」

 社内に戻ると、変な噂が飛び交っていた……。

 ――――――――――――――――――――――――――――

 起きたら8時だった。
 退社時刻は6時である。
 残業をこなすうちに休憩中、10分ほどだがうとうとしてしまったらしい。
 慌てて作業開始。
 ふと携帯を見ると、ヒビの入った液晶に、新着メールのマークがついていた。
 メールはハルちゃんから、何時頃終わりそうか? というメールだった。
 9時頃、と送ると、了解、今日のご飯、楽しみにしといて、と返事が返って来た。
 実は最近、仕事のある日は夕ご飯をハルちゃん家で食べて帰る癖がついている。
 どうせ帰っても冷や飯があるだけなので、とてもありがたいのだが、家族の視線がイチイチ鬱陶しかったりする……。
 あちらを立てればこちらが立たず、ということかな。
 というわけで、どうせ立てるなら彼女のほうでしょ、とばかりに9時ちょいに仕事が終わればすぐにハルちゃんの部屋へ直行。

 ――で

 わざわざメールを送ってくるとは、いったいどんなご馳走か、と思ったら...

「本日の献立は、本物のうどんです」

 うどんだった。
 実はこの間、ハルちゃんが風邪を引いた際にうどんを作ってあげたのだが...

「まずい、こんなのうどんじゃないよ」

 と言われてしまったのである。
 今回のうどんはそれとは比べ物にならない、本物のうどんらしい。

「本物か」

「そ、本物」

 私が作ってあげたのは、病人用にネギとうどんだけの質素なものだったのだが、ハルちゃんが作ったうどんは、釜揚げうどんだった。
 それ専用と思われる桶の中から、出来立てと言わんばかりに湯気が噴出しており、とても熱そうだ。
 醤油色した浸けダシに、ウズラたまご、生姜、ネギ、ゴマの薬味が置いてある。
 本格的だなぁ……。

「まずはダシだけで召しあがれ」

「じゃ、いただきます」

 うどんにしては細めだが、私が作ったみたいに、市販のぶよんぶよんの安物のうどんじゃないということが、箸から感じる。
 ちょいっとダシに浸けて、まずは一口。
 ツルツルっと喉越しよく、気持ち良い食感。
 そしてコシがある、というのはこういうことを言うのだ、と言わんばかりの弾力。
 これは正直、この一言しか思いつかない。

「うまいな」

 ハルちゃんは食べ物に関しては五月蝿い。
 こんなうどんをいつも食べているとすれば、私が作ったやつを、まずい、と言うのも通りである。

「このうどん、どうしたん?」

「自分で打ったんっすよ」

「マジか。すごいな」

「私、履歴書の特技欄に、『うどん打ち』 って書いたくらいだもん」

「なんじゃそら!? そんなん履歴書に書く奴いるんかぃ!」

「事実、美味しいでしょ?」

「うん、うまい。だけど、特技がうどん打ちでよく書類審査通ったな」

「面接でも聞かれたよ。個性があって大変よろしい、って褒められたっす」

「確かに個性的やね」

 ウズラたまごやゴマ、ネギ、生姜といった薬味もありがたく、あっという間に食べつくしたのでありました。
 ご馳走様です。



posted by BlueTasu at 00:00| Comment(5) | TrackBack(0) | 日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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