2006年08月24日

No.156 夏と蝉と人の絶叫

 照りつける太陽と陽炎揺らめくアスファルト。
 この世は地獄に違いない。
 確信めいた私の呟きは、夏の風物詩ともいえる蝉の喚き声にかき消された。
 時刻は正午。太陽は中天。蝉の鳴き声に腹の虫。場所は牛丼屋。でも注文はざる蕎麦。

「えらい少食やねんな」

 私の目の前にいる、最近仲の良い女性――ハルちゃんは、牛丼に生卵に冷やしはいからとサラダをテーブルにズラっと並べてそう言った。
 最近、というかもうずっと食欲がないため、ざる蕎麦1枚でも頑張っているほうなのだが、ハルちゃん的感覚ではこれくらいは朝飯にもならないようだ。
 とりあえず私は、「昼はいつもこんなもんだよ」 と言葉を濁す。

「あかんあかん。そんなんじゃあかんよ、朝と昼はしっかり食べなダメっすよ」

 ハルちゃんはうちのおかんのように あかんあかん を連発した。
 富井副部長ならここで 「男を見せたるぜー」 とばかりに全メニューを注文するところだが、あいにく私にそんな度胸も根性もない。
 でも確かにざる蕎麦だけじゃダメかなぁ、とは思っていたので、サラダくらいなら食べれるかな、と思って注文を追加した。
 ハルちゃんはその様子を見て

「んー、せやけど、Blueさんはあれやな」

 生卵を溶き、牛丼に流し込みながら言った。

「めちゃくちゃ付き合いがいいよね」
「どーゆーこと?」

 オウム返しで聞き返す私。
 ハルちゃんは、んー、とちょっと悩んでから答えてくれた。

「だってさ、2週連続で映画に誘っても付き合ってくれたし、今日たまたま朝一緒になったときに昼ご飯誘っても付いてきてくれたし、今もメニューのことをツッコんだらサラダを注文したし、めちゃめちゃ付き合いいいやん」

 あーなるほど。確かにハルちゃんの誘いは断ったことないなー。
 でも普通、女性の頼みって用事があったり、あまりにも無茶じゃない限り断ることってないよ、ね? (誰に聞いてんだ)
 でも主体性のない男だと思われるのはイヤだなぁ。(実際ないっぽいけど)

「せやねぇ。頼まれたら断れない性質なんかもなぁ」
「でも昨日、部長に仕事頼まれたら断ってたやん」
「……見てたんかぃ」

 折角良い人っぽいのを演じたのに (演じた言うなよ) すかさず切り返されてしまった。
 なんだろなー。ここで 「ハルちゃんの頼みだからさ」 とか言えば良かったんだろーか。でもそんなセリフ、私には似合わないしなー。(ヘタレ)

「部長が言うてたで。Blueの奴はヤバイ匂いを嗅いだらすぐ逃げよる。この仕事はホンマに面倒臭いから押し付けたろか思たのになぁ、って」
「……断ってよかった」

 心底安堵した。
 そこから仕事の話、主に部長の悪口に終始していたような気がするが、そんなことで話は弾んだ。
 ――で、唐突に話は途切れ

「でも、Blueさんは付き合いいいよねー」

 何故か話が一周してきた。

「じゃ、じゃあさ、今度俺が逆にハルちゃんを誘ったら、付き合う?」
「いいよー」

 人がちょっと緊張して誘ったら、あっけらかーんとした答えが返って来た。
 ハルちゃんはいつも即答だ。夏に飲むコーラみたいに爽やかだ。一気に飲んだら苦しいけど……。

「で、どこに連れてってくれるん?」

 にまぁーっと笑って聞いてくる。どこか小悪魔的な笑いであった。
 明らかに私を試している顔である。

「あー……どこいこう」

 情けなくも聞き返してしまった。
 せめて内緒、とか当日のお楽しみ、とか言えなかったんかぃ!! うあーッ!!

 絶叫したい気分にかられて頭を抱え、視線を彷徨わせる――と、

「ぶっ」

 植木を挟んだ反対側の座席で、一心不乱にメールを打つ後輩の姿があった。
 思わず目があう私と後輩。

「あー、先輩。俺に構わず、続けてください」

 ・
 ・
 ・

 聞かれてたーっ!!
 この小っっ恥ずかしい会話の一部始終を聞かれてたーっっ!!

「おー、君、確かBlueさんとこの子やんな。こんにちわー」
「ども、ハルさんこんにちわ」

 私が身悶えていると、ハルちゃんと後輩が仲良く挨拶を交わしていた……。

 ・
 ・
 ・

 で、昼の休憩も終わり、会社に戻ると...

「聞いたぞこらーっ! Blue、貴様、ハルちゃんに手をだしたらしいなーっ!」
「映画へ一緒に行ったんやとー!! お前、暗がりで何をしたー!!」
「今週末はお前またどっか行くらしいやんけっ!! おおっ!?」
「行き先は考えたんか? ホテルの予約も完璧なんか?」
「ハルちゃんが寝とられたーっ!!」
「おいこらお前ら、五月蝿いぞ。仕事しろ」
「私知ってるでー。先々週も映画一緒に行ったんやんなー」
「なんだとーっ!!」

 ……部長の注意声がかき消されるほどの騒ぎ。蝉の声より煩い。それはもう、ここは小学校か、と思うほどであった。

「で、先輩。どこ行くんですか?」

 騒ぎの原因であり、盗聴人である後輩が聞いて来た。
 あー、それもどうしよう……。
 悩みは尽きません。



posted by BlueTasu at 00:00| Comment(5) | TrackBack(0) | 日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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