2006年08月01日

No.127 恐怖の花火大会

 私は昔、花火が怖かった。というか嫌いだった。
 今はもう怖くなんかないし、苦手と言うわけでもないし、嫌いでもなんでもない。
 とにかく私が花火を嫌いになったのは小学生頃の話で、原因はやっぱりアレにあった。

 ・
 ・
 ・
 
 シュパッという小気味の良い発射音と共に、夜空へ向かって走る一条の光。
 瞬間、腹に響くほどの衝撃と共に炸裂し、花開く炎の大輪。

 ――そして降り注ぐ火の粉。

 花火は私たちのほぼ真上で炸裂していた。

「やばいって、ここ近すぎるよ! 怖いよ!」
「何言うとんじゃ!! ワレが花火を近くで見たいいうたからここまできたんやんけ!」

 私と姉は、花火大会に来ていた――つか、無理やり連れてこられていた。
 私としてはこんな暑い夏に出かけるのはイヤだったし、さらに人ごみの中を歩くのかと思うと憂鬱になるし、ていうか、ぶっちゃけ姉と一緒だというのが最大の懸念事項だったりする。

「言うたよ、確かに言うたけど、物事には限度ってもんがあるやろ!?」
「ボケが! 限界ってやつを決め付けるな! 人間には無限大の可能性だ!」

 なんか良いことを言っているような気がしないでもないが、使い方が間違っているということは指摘してはいけない。
 つか、そうこう言っているうちにまたも花火が打ちあがる。
 そして頭上で炸裂する火薬。飛び散る火花。阿鼻叫喚。

「あかんって!! ここ危ないって!! 死ぬって!!」
「あ〜ん? 花火の音が大きくて聞こえんナァ?」
「イヤダァ〜、もう帰りたぃ〜」
「わはははーっ! 絶景じゃーっ!」

 姉はとことん ヤな奴 であった。
 人の嫌がることが大好きなのだ。
 典型的なイジメっこである。
 私は泣き喚き、姉はそんな私を笑い続けた。

「おい、なんか子供の泣き声がするぞ?」

 さすがに花火を打ち上げていた人も、近くの異変に気付いた。
 花火を打ち上げているすぐ真後ろの茂みからのようだ。
 作業をしていたおっさんのうちの1人がこちらへやってきた。

 それは一種異様な光景であっただろう。

「な、なんじゃこりゃ!?」

 男の子が泣き喚き、女の子(?)が笑い転げている。
 つか、ここは立ち入り禁止区域であって子供がのこのこと入ってきていい場所ではない。
 ほどよくおっさんな彼は、しばし呆然としたあとすぐに立ち直って状況を把握した。

「こらこのクソ餓鬼どもがーっ!!」

 この花火に負けないほどの声で一喝。

「あー、やばいわ、逃げるでーっ!」

 そう言うと姉はさっさと逃げ出した。

「待ってよおねぇちゃーん!!」

 私も逃げた。

「待たんかこのクソ餓鬼!!」

 おっさんも追ってきた。
 はっきり言って恐怖だ。
 後では花火の炸裂音がどかんどかん聞こえるし、それに負けないくらいの大声で追いかけてくるおっさんがすぐ傍まで来ている。

 と思ったら前方の姉がいきなり立ち止まり、振り向いた。
 私は姉の行動に疑問を持てないまま、追い越す。

「捕まえたぞこの餓鬼」

 そして姉におっさんが追いつき、捕まえた瞬間だった。
 姉の体が沈み、おっさんの体が浮き上がる。
 姉は足でおっさんのボディーを蹴飛ばし、ぶん投げた。

 その技を、巴投げという。
 おっさん悶絶。

「おっしゃ、今や、逃げるで!」

 確かに効果的だったが、無茶苦茶である。
 だが私はそんなことを気にする余裕もなく、一目散にその場を逃げ出していた。

 ・
 ・
 ・

「このボケがーっ!」

 が、あっさりバレて怒られた。
 女の子に投げ飛ばされたおっさんが思い当たることは、ここらへんでは我が家の道場関係者しか考えられないのである。
 すぐさま我が家に通報が入り、事はあっさり露見した。

「姉はよくやった。おっさんを投げ飛ばすとは、お前の将来は楽しみだ!
 それに引き換えお前は何だ! 花火が怖いだのいって騒いだあげくに見つかってただ逃げるだけとは、それでも男か貴様っ!!」

 怒るところそこかよっ! と今の私は盛大に突っ込めるが、当時の私にそんな余裕もなく、ただただ思いっきりしばかれて泣いた。
 んでもって練習も増えたし生傷も増えたし、何よりも姉の増長が目に見えて酷くなった。

 花火なんか嫌いだ!

 原因は間違いなく姉とうちのタコ親父にあったのだが、小さい頃の私はその時の怒りを、直接の原因となった花火にぶつける以外なかったのであった。

 ・
 ・
 ・

 こんな話を書いたのも、実は昨日が花火大会だったのでそのことを思い出したためである。
 もう花火は怖くはないし、純粋に綺麗だと思うので嫌いでもない。
 
 ――が

 初めての夏。
 どーんどーんと炸裂する花火の音に、我が家のウサギ、うーすけ は震えっぱなしであった。
 そんな うーすけ を姉は撫でながら

「昔のアイツもこんな感じで震えてて、楽しかったわー」

 とか呟いていた。
 だが今ならわかる。それは違うということに。
 うーすけ は花火の音に震えているんではなく、あなたに撫でられていると言う事実に震えているのだ。

 なんだか今の ウサギのうーすけ に子供の頃に感じていた、漠然とした不安・恐怖を共感できたような気がした私であった。



posted by BlueTasu at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 過去 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。