2006年06月19日

No.85 イインダヨ

 最近見るたびに昔のトラウマを穿り返されてしまうCMがあります。

 野原で野球中、打った打球は大きく弧を描き……一軒家の窓ガラスを直撃。
 野球をしていた全員が並び、ごめんなさいと頭を下げる。
 家主はワンテンポの沈黙のあと、「イインダヨ」

 「グリーンダヨー!」

 という淡麗グリーンラベルというビールのCMです。
 結構放映されているので知っている方も多いはず。
 そう、結構放映されているので、そのたびに胃の辺りが疼きます……。

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 あれはたぶん私が小学1年生、7歳の頃だったと思います。
 私の家の近くには何を奉ってるんだか今だによくわからない神社があるのですが、ここは子供たちの格好の遊び場でした。
 鬼ごっこするにも十分な広さでしたし、かくれんぼするにも社付近や茂みなどが結構あって白熱します。
 影ふみは頭上を巨木が覆っていてできませんでしたが、代わりに多少の雨なら守ってくれる、天然のドームになってました。
 この頃はファミコン全盛期で、世間様ではスーパーマリオが猛威を揮っていたのですが、そんな高価なものを田舎者達が持っているワケもなく、こうした神社で遊んでいたのです。

 この頃、私らの間では野球が流行っていました。
 当たっても柔らかいビニール製のボールを使用していたのですが、これが無惨にも川にどんぶらこーどんぶらこーと流されていってしまいました。
 ハナタレ小僧どもはそれをあたふたとしながらも、無力感に苛まれてうな垂れます。
 虫取り網とかあればとれたんですけどねぇ……。

 とにかく野球がしたいのにボールがなくなった。
 どうすんだよ、お前買いにいけよ、などと喧々諤々。
 仕方なく私は家を漁りに行きました。神社から一番近いのは私の家なのです。
 ですが、どこを探しても適当なボールなんて見つかりません。
 このままでは大好きな野球ができないのです。
 そこで私は思いつきました。

 オヤジの宝物、掛布のサイン入り硬球を持っていきました。

 これにはガキども、大興奮。
 すげぇ、これが硬球か! かてぇなぁ! 当たったら痛そうだ! でもこの落書きがダメだなぁ。
 モノの価値がわからないガキどもです。
 しかしまた問題が発生しました。
 プラスチックバットでは硬球は打てないのです。
 そこで私は仕方なくまた家へ。

 オヤジの宝物、掛布のサイン入りバットを持っていきました。

 これにもガキども、大興奮。
 すげぇ、これがプロのバットか! かてぇなぁ! 当たったら飛びそうだ! でもこの落書きはイケてねぇよなぁ。
 モノの価値がわからないガキどもです。
 しかしそんなことは些細なこと。野球は再開されました。

 「かぁん!」

 木製のバットによる快音が響き渡ります。
 今までプラスチックバットの 「べこ!」 という情けない音しか聞いたことがなかったガキたちは、それだけで大はしゃぎです。
 確かに硬球は痛いですが、それはそれでスリルがあって面白い。

 やっぱ野球は硬球だよな! この音、たまんねぇよ! 手にしっくりくるぜー!

 みんな適当なことを言っています。そして遊びはエスカレートしていきます。
 軽いノックをしたり、キャッチボールをしていただけだったのですが、唐突に試合が始まりました。

 ピッチャーが思いっきり投げる。
 バッターは力の限りフルスイング!
 キャッチャー役の灯篭が鈍い音をたててボールを跳ね返す。
 バットに快音が響き、守備役があっちにこっちに走り回る。
 子供たちの無邪気な嬌声が響き、楽しげな様子はほほえましい光景とさえ言えるでしょう。

 ――硬球と木製バットを使用していなければ。

 硬球を、木製のバットの芯でとらえれば、子供の力でも恐ろしく飛ぶのです。
 「ビシャアァッ!」 ――凄まじい音がしてボールは飛んでいきました。
 大きい大きい、これは神社の広場を飛び越え、完璧なホームランです。
 神社の森を飛び越え……

 がしゃーん

 神社の隣にある民家の窓ガラスを突き破っていきました……。
 うわああ、やっちまったー! おれしらねー! おれのせいじゃないぞー!
 大混乱に陥るガキども。そしてそれに追い討ちをかけるのごとく……

「こらあああっ! 誰じゃあああっ!!」

 神社の隣に住む爺さんは短気で有名で、子供たちの間では恐怖の存在 「アカタコ」 の二つ名で知られていました。
 ニックネームの由来である、見事に禿げ上がった頭を、怒りで真っ赤に染めながらアカタコが走ってきます。

 まずい……。

 私には利点、というか、癖があります。
 まずい、と思えばとにかく謝り倒す、という癖です。

 なぜこんな癖がついたのかはわかりません。うん、なんでだろうな!

 ごめんなさい、すいません、ごめんなさい、すいません、もうしません!
 私はとにかくアカタコに必死で謝り倒しました。
 まさに世界中の人たちに謝るかの勢いです。
 ……ちなみに謝っているのは私1人。
 ガキどもは、蜘蛛の子を散らすかのごとく去りました。

 友達ってなんだ!?

 私は7歳でそんなことを考えつつも、アカタコに謝り続けます。
 しかし、アカタコの怒りは収まりません。
 アカタコは家が近いので、私の顔を知っています。

「お前の親にかけあってくれるわっ!」

 アカタコが物凄い勢いで私を引っ張って家へ連行しようとします。
 やばい、これはひじょぉぉぉにやばい!!
 オヤジの宝物を私は内緒で持ち出しています。
 そしてこんなことをしでかしています。

「いやだああああっっ!」

 今頃、完璧に混乱した私は散々姉にしかけられた関節技をアカタコに仕掛けて振りほどき、逃げました。
 逃げました、逃げました、逃げまくりました!

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「お前はあほかーーっ!!」

 逃げましたが、一時しのぎにしかなりませんでした……。
 私は家に帰ると、アカタコの通報を受けた父……は何故かいませんでしたが、姉が仁王立ち。

 野原を飛び交うチョウチョの群れをバックに「しばらくお待ちください」

 ってくらいボコボコに折檻されました。
 さらに、父がやってきて再び折檻、あげくに納屋に閉じ込められ、夕食抜きという目にあいました……。
 未だに忘れられない、トラウマです……。


 余談ですが、掛布のサイン入りバットはサイン用バットであり、硬球を打つには少々強度が足りなかったようで……バットにはヒビがはいっていました。
 ボールもドロドロになっており、さらにガラスを突き破ったりしたせいで細かな傷がいっぱいです。

 父もしばらく立ち直れないくらいのダメージを負ったようでした……。



posted by BlueTasu at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 過去 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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